1.あえて「子どもの権利」というのは、なぜ?
子どもは権利の主体です。子どもも基本的人権を有しており、憲法の保障が及びます。
基本的人権は、人間であることにより当然に有する権利(人権の固有性)であり、侵害することができず(人権の不可侵性)、人種、性、身分などの区別に関係なく享有される(人権の普遍性)権利です。また、憲法には「第三章 国民の権利及び義務」「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。」(憲法11条)「すべて国民は、個人として尊重される。」(憲法13条)等、「国民」を権利の主体とする規定がありますが、これらの「国民」には子どもも当然に含まれます。
しかし、権利には、侵害されたときに意識しやすいという特徴、権利者が(適切に)権利行使しなければ実現されないという特徴があります。
この点、子どもは、年齢や発達、環境等によって、権利侵害に気づかない場合、権利を適切に行使できない場合も多いです。
それゆえ、権利行使の全てを子どもに委ねるのは不適切であり、子どもに関わる大人(親など)が「子どものため」を考えることになります。ここから「子どもの最善の利益」という観点が出てきます。また、成長・発達の過程にある子どもだからこそ、保障される権利(成長発達に関わる権利、家庭環境に関わる権利、意見表明権、教育を受ける権利など)があります。
2.子どもの最善の利益とは?意見表明権とは?
「子どもの最善の利益」は、個別事案ごとに、様々な要素を考慮して判断されます。子どもが成長・発達することを考慮しなければならないとされております。
『札幌市子どもの最善の利益を実現するための権利条例条例解説Q&A』Q3では、「子どもの最善の利益」の考慮とは、「子どもが自立した社会性のある大人へと成⾧するために最も良いことは何かを考えるということ」と整理されております。
「子どもの最善の利益」は、子どもや保護者の意向と一致するとは限りません。
例えば、予防接種や虫歯治療の場面では、子どもは、泣いて予防接種や虫歯治療を嫌がることも多いと思います。それでも、予防接種や虫歯治療を受けさせた方が「子どものためである」と考える方が多いと思います。また、体罰や厳しい叱責をした保護者からは、「子どものためだった」と語られることが多いです。
それでも、「子どもの最善の利益」を検討する際には、子どもの意見を十分に考慮する必要があります。子どもこそが、「子ども本人の専門家」であり、子どもにも「私たち抜きに私たちのことを語るな」という思いがあります。
子どもが権利の主体であるということは、「子どもが自分の人生を自分で選んで歩いていく」ということです。
国連子どもの権利委員会が作成した一般的意見14号「自己の最善の利益を第一次的に考慮される子どもの権利」では、「子どもの最善の利益」は手続を大切にする側面を有することが明らかにされており、「第12条(意見表明権)の要素が満たされなければ、第3条(子どもの最善の利益)の正しい適用はありえない。」(パラ43)とまで表現されています。
3.意見表明権について
子どもには、子ども自身に影響を与えるすべての事柄について、自由に自己の意見を表明する権利が保障されています。表明された意見は、子どもの年齢及び成熟度に従って、考慮される必要があります。
意見表明権は、年齢等の制限はなく、すべての子どもに保障されます。
そもそも、子どもの権利条約の原文は「views」であり(「opinions」ではない)、「意見」は日本語訳にすぎません。「views」は、言葉で表現される必要はなく、整理されている必要もないと考えられ、「思い」「悩み」「希望」「夢」「不安」「興味」など、内面の全てを含む言葉と解釈するのが適切といわれています。
乳幼児等、言語で表現できない時期でも「views 」を持つことはでき、大人は、遊び、身振り、表情およびお絵描きを含む非言語的コミュニケーション形態を認識し尊重することが必要といわれています。
子どもの内面は揺れ動くし、年齢や発達の程度によっては、子どもが正確に「views」を表現する能力を持っていないこともあります。質問方法(質問の文言、ニュアンス、質問したタイミング、シチュエーション)や質問者、子どもが有している情報・選択肢によっても、回答内容は異なります。
意見表明権は、あくまでも「自由に」意見を表明する権利であるので、質問者は、子どもが不当な影響(圧力や誘惑など)を受けないように配慮する必要があります。子どもは、大人の表情や態度をよく観察し、大人が希望する回答を見抜くことも多いです。それゆえ、質問者は、自分の態度等もコントロールする必要があるとされます。
留意すべきは、意見表明権は、決して「子どもの意見が実現される権利」ではないということです。
大人に求められるのは、あくまでも子どもの意見を「相応に考慮」することです(なお、「正当に重視される」との日本語訳もあります)。また、大人は、子どもの意見を過大評価して、子どもに自己責任を負わせてはいけません。
大人が、子どもの意見を「相応に考慮」した結果、特に子どもの意見と異なる選択を行う場合には、子どもへのフィードバックを行うことが大切です。決定を行なった大人は、子どもに結果を知らせるとともに、検討過程において、子どもの意見がどのように考慮されたか、どのような代替案があったか等、子どもとの対話を通じて、丁寧な説明をしなければならないとされています。
また、意見表明権を実現するために、子どもには、意見を「聴かれる機会が保障されなければならない」と考えられています。手続面を保障することで、意見表明権の実効性を担保するという関係にあります。
意見表明権を実現するためには、子どもに情報が提供される必要があり、具体的には、意見を求められる事項、選択肢、意見を聴く担当者、可能性のある決定や結果、意見聴取の方法についても、情報提供されなければならないと考えられています。子どもの意見を聴取する際には、子どもが意見を表明しやすい、励ましに富んだ環境が用意されなければならないともされています。
今回、令和4年改正児童福祉法で制定された意見聴取等措置、意見表明等支援事業(通称「子どもアドボカシー事業」)は、まさに「意見を聴かれる子どもの権利」を実現する取り組みといえます。